​特定非営利活動法人Gender Action Platform (GAP) は「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」に対するコメントを提出しました。「ビジネスと人権」についての議論において国際レベルでは「ジェンダー平等の視点」の主流化は前提となっている今日、   「本ガイドライン(案)」にはその前提の認識すら乏しいと読み取れます。国際社会・国・市民社会が積み上げてきた合意や、世界から見た日本の リスク観等を根拠として、グローバル・コンセプトとしての人権の意味が行政や企業のみならず日本社会で浸透するための重要な機会となり、   ジェンダー・ギャップ縮小につながることを期待し、コメントを発信します。


提出した意見のPDFをこちらからダウンロードしていただけます。

経済産業省「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」に対する意見
2022年8月29日
特定非営利活動法人 Gender Action Platform

 

意見1:

 

【該当箇所】

すべて

【意見内容】

個別コメントの大前提として、本ガイドラインに国際人権の中核的要素である「女性の人権」及び「性差別の撤廃」を明確に位置付け、「ジェンダー平等の視点」を主流化すること(ジェンダー主流化)を求める。

【理由】

  • 国連憲章が「男女の権利における平等」を普遍的価値としていることを受け、世界人権宣言は性別による差別を受けることなくすべての権利・自由を享有すること (性差別の撤廃)を掲げている。それを実現するために、国連を中心とする国際協調を通じて、規範・基準・枠組みが形成され、その過程には日本政府も主体的に関わってきた。代表的なものに、国連女性差別撤廃条約(1979年)、「女性の権利は人権である」としたウィーン宣言(国連世界人権会議、1993年)、「性と生殖の権利は人権の一部である」とした国際人口開発会議行動計画がある。したがって、「男女平等」「性差別の撤廃」「女性の人権」は、国際人権基準及びプラクティスの中核を成すものである。
     

  • 民間企業のための枠組み(「国連グローバルコンパクトの10原則」「責任投資原則」、「ビジネスと人権に関する指導原則」、「女性のエンパワーメント原則」)も、当然のことながら、上記の基準を通底する理念としている。さらに、SDGsの原典である「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年国連総会)は、前文で「(このアジェンダは)すべての人々の人権を実現し、ジェンダー平等とすべての女性・女の子のエンパワーメントを目指す」と謳い、人権とジェンダー平等が不可分の理念・原則であることを明示している。また、「(SDGsの)実施において、ジェンダーの視点をシステマティックに主流化していくことは不可欠である」と述べ、ジェンダー主流化を実施原則とした。同様に、パリ協定(2015年)もジェンダー主流化を実施原則とし、2019年にはISO(国際標準化機構)もジェンダー行動計画を策定し、着手した。G7首脳宣言も、2018年以降、各項目に女性特有の課題が明記されるなど、ジェンダー主流化は既に国際標準として定着している。
     

  • 一方、世界からは、日本における最大の人権リスクは「性差別」「ジェンダー不平等」だと見做されている。UNDPが日本のODAも活用して制作し、アジア・アフリカ諸国で展開している「人権DDトレーニングファシリテーションガイド」で紹介されている、国別人権リスク特定のためのツール「CSR Check」で日本を検索すると、「差別とジェンダー」が挙げられ、「性差別」、「男女間賃金格差」、「幹部職・管理職に男女格差」が言及されている。世界経済フォーラムのGGI(グローバルジェンダーギャップ指数)の経済分野における順位は、先進国はおろか、アジア主要経済国と比しても最低レベルである。世界銀行の「女性、ビジネス、法律」報告書でも、2022年の日本の順位は190カ国中108位であり、女性の経済的権利に関する法整備・慣行の遅れが指摘されている。
     

  • ジェンダー視点の欠落したガイドラインを政府として発表するならば、日本が国際人権を理解せず、ジェンダー平等の実現及び性差別の撤廃という国際目標を軽視し、状況を改善する意思も無いという誤ったメッセージを発信することになる。それは、「ジェンダー平等と女性のエンパワーメントは、持続可能で包摂的な成長に不可欠である」としたG20大阪首脳宣言(2019年)や、「ジェンダー平等は民主的社会の構成要素である」とするG7首脳コミットメントに相反する姿勢であり、来年の議長国としての資格が問われかねない。G7の市民社会ステークホルダーからの厳しい批判も免れない。また、国際協調の場で女性の人権及びジェンダー平等に関する規範作りに貢献してきた日本政府の信頼を損なうことでもある。

 

意見2:

【該当箇所】

2.1.2.1 「人権」の範囲

【意見内容】

「人権の範囲」に「女性の人権」「性差別の撤廃」を明確に位置付けること。また「ジェンダーによる差別を受けない自由」を原文から正確に訳すこと。

 

【理由】

 「Freedom from discrimination」の訳語であると思われるが「ジェンダーによる差別を受けない自由」は明らかにミスリーディングである。

 

意見3:

【該当箇所】

3 人権方針の策定

4 人権DDの実施

 

【意見内容】

「人権方針の策定」と「人権DD」のプロセスにおけるジェンダー主流化[1]の具体策を明示すること。基本的なステップは、「男女別データ」「ジェンダー統計」を用いた実態把握・現状分析の実施と、すべてのプロセスにおける「女性の平等な参画」の確保である。(女性の参画には、当事者としての女性と、女性の問題に取り組んでいる団体の参画が含まれる)。具体的な修正の要求は以下【理由】を参照のこと。

 

【理由】

  • 人権方針の承認:日本企業の経営陣は男性中心であり、承認・決定の場に女性がいない、もしくは著しく少ないことも想定される。国際的には、それ自体が人権リスクとして捉えられることを周知すると共に、ガバナンスにおけるジェンダーギャップ解消を強く促すべきである。
     

  • 人権方針の策定:策定の際には、ジェンダー及び女性の人権に関する国際基準・プラクティス及び日本を含む各国の状況に知見のある団体・専門家とのダイアログを持ち、人権方針にジェンダー視点を統合するよう促すべきである。
     

  • 人権DD(負の影響の特定・評価):国/地域リスクの概要(p13)に「ジェンダー」を含め、当該国のジェンダー状況を把握するための参考資料(例:国連女性差別撤廃条約締約国については委員会による見解・勧告、世界銀行のWomen, Business, and the Law、世界経済フォーラムのGlobal Gender Gap Report、UNDPのNational Human Development Report、アムネスティインターナショナルのThe State of the World’s Human Rights等)のリンクを加えるべきである。
     

  • 人権DD(負の影響の特定・評価):女性・女の子に特有の普遍的な人権リスク(賃金格差・差別的待遇・職域分離等の労働における権利、リプロダクティブヘルス/ライツ・セクシュアルハラスメント・職場におけるジェンダーに起因する暴力等の健康と安全への権利、土地・自然資源の所有に関する権利)の特定、人権リスクのジェンダー分析(男女別データの活用、男女の役割分業と意識のギャップ、男性優位の社会及び企業規範、ガバナンスへの関与度合い/資源へのアクセスとコントロールの状況を含む分析)を行うことを促すべきである。ジェンダー平等視点の無いビジネス行動は、社会における既存のジェンダー不平等及び性差別を助長し、個人及びコミュニティ全体に負の影響を及ぼしかねないことを周知すべきである。[2]
     

  • 人権DD(ステークホルダーからの情報収集):権利主体としての「女性」を必ず含め、対話・協議には必ず男女双方が参画できるようにし、女性が話しやすい環境を確保することなどを推奨すべきである。また、ジェンダー及び女性の人権に関する国際基準・プラクティス及び当該国のジェンダー状況に知見を持つ団体・専門家の参画を促すべきである。男性中心のステークホルダー・エンゲージメントはそれ自体が人権侵害と捉えられるので、避けるよう促すべきである。
     

  • 人権DD(深刻度の判断):深刻度を判断する際には、男女別・ジェンダー統計も活用し、負の影響の可視度・深刻度が男女でどのように異なるのかを検証すること、特に女性が直面しやすい「暴力」、「リプロダクティブヘルス/ライツ」、「経済的脆弱性」の深刻度に目を向けること等を推奨すべきである。人権DD(負の影響の特定・評価)と同質の対処が求められる。
     

  • 構造的問題(p23):国際常識に鑑み、社会・経済に広く蔓延する「性差別」「ジェンダー不平等」を構造的問題として明示すべきである。
     

  • 評価:男女別データ・ジェンダー統計を用いて評価を行うこと、ヒアリング等には女性の参加を確保すること、評価結果の分析ではジェンダーに知見のある団体・専門家の助言を得ることを推奨すべきである。

    [1] ジェンダー主流化とは、家庭・社会・経済に構造化された性別役割分業、バイアス、性差別により、男女が異なる状況にあるという前提に立ち、方針決定・計画・実施・モニタリング・評価のあらゆる段階で男女それぞれの状況を明確にし、それぞれのニーズに対応することにより、男女間格差を縮め、ジェンダー平等を実現するプロセスを指す。1997年経済社会理事会(ECOSOC)合意事項:https://www.un.org/womenwatch/daw/csw/GMS.PDF
    [2] “Gender-Sensitive Human Rights Due Diligence”, 第7回国連ビジネスと人権フォーラムのジェンダーラウンドフォーラムで共有されたワーキングペーパー(https://www.ohchr.org/sites/default/files/Documents/Issues/Business/Gender/GenderRoundtableDueDiligence.pdf

 

意見4

【該当箇所】

すべて

【意見内容】

「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」「Training Facilitation Guide: Human Rights Due Diligence」(UNDP)[3] を参照すること。

 

【理由】

ジェンダー視点が明確であること。

 

意見5

【該当箇所】

1.1 本ガイドラインの策定の経緯・目的等

 

【意見内容】

実務的な資料(p3)の作成にあたっては、先述の「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」「Training Facilitation Guide: Human Rights Due Diligence」(UNDP)を参照するとともに、女性の人権/ジェンダーに関する国際基準・プラクティス・事例に知見を持つ専門家・団体の助言を得て、ジェンダー主流化の実務的手法・事例を盛り込むこと。

 

【理由】

「ジェンダー平等の視点」を主流化することに資するため。

[3] https://www.undp.org/publications/human-rights-due-diligence-training-facilitation-guide